残酷な運命のリヴァース(加筆修正版)
第九話 意外な救援者

使徒シャムシエルが倒された後、最後の使徒サキエルはなかなか姿を現さなかった。
シンジの腕の怪我はその間にすっかり治っていたが、どんなに努力してもレイから授かった力が弱まって行くのはどうにもできない。
力が使えなくなって行く事にシンジは苛立っていた。
しかしそんなシンジの心が荒まずに済んだのは、側でシンジを励まし続けたアスカの存在が大きかった。
ついにシンジのシンクロ率が起動指数を割り込んでしまった時も、アスカは優しくシンジに接する。

「シンジはアタシにエヴァに乗る事以外にも大切な事があるって教えてくれたじゃない。今度はアタシがシンジの心を守ってあげる番なのよ」

アスカの優しさに心を癒されたシンジは、心を強く持って自分を責める事を止めた。
そしてシンジの力が完全に消失した時を狙ったかのように、使徒サキエルが衛星軌道上に現れる。
使徒サキエルは外見からしてシンジが対峙した時の姿とはまるで違っていた。
コアが最初から5つに分裂しているのはイスラフェル戦で学習して進化を遂げたのだろう。
さらに、使徒サキエルは衛星軌道上に留まったまま、地上に向けて強力なビーム攻撃をしてきた。
その威力は使徒ゼルエルに匹敵するものだ。
ロンギヌスの槍もポジトロンライフルに注入するエネルギーも無い今、使徒サキエルを攻撃する手段は何も無い。

「詰んだ……今度こそ終わりだな」

冬月がポツリとそうもらすと、発令所は悲愴感に包まれた。
みんなパニックになるよりも重い絶望に押し潰されていたのだ。
静まり返る発令所で、ミサトは指示を飛ばす。

「アスカ、シンジ君を乗せて弐号機で出撃して」
「作戦は? どうやって使徒を倒すの?」
「エヴァの中が一番安全なのよ」

ミサトの答えを聞いて、アスカとシンジはミサトの考えが解った。

「僕は、結局みんなを守れなかった……」
「シンジ、アタシも後でずっと側で泣いてあげる。だから行きましょう」

アスカとシンジは顔を伏せながら手をつないで、弐号機への下へと走って行った。
地上に射出された弐号機は、ネルフ本部から走って逃げようとした。

「シンジ君、アスカ! 絶対に生き延びるのよ!」
「「はいっ!」」

しかし地面から湧き出たように、使徒サキエルの分身4体が弐号機を取り囲み行く手を阻んだ。

「おそらく、気配を消して地下に潜伏していたのね」

リツコは落ち着いた調子でそうつぶやいた。

「これじゃあ、逃げようがないじゃない……」
「アスカ……」

弐号機のエントリープラグの中に居たシンジはアスカの手をしっかりと握りしめた。
空中に浮かぶ使徒サキエルの本体はネルフ本部に向かって強力なビーム攻撃を続けていた。
そして4体の使徒サキエルの分身は前後左右から弐号機に襲いかかろうとしていた!
しかしそのタイミングで意外な救いの手が現れたのだった。
9体の白いエヴァンゲリオンが輸送機に乗せられて到着すると、そのうちの4体が地上の使徒サキエルの分身4体と戦いを始める。
そして残りの5体は翼を広げて地上から宇宙へ向かって飛び立ち、最初に出現した5体の使徒サキエルへと突撃した。
発令所のミサト達は驚いて声も出せずに固まったままディスプレイを見つめている。

「すでにエヴァシリーズが完成していたとはな」
「ゼーレの老人達もここで決着をつけるつもりだろう」

冬月の言葉に司令席に座っていたゲンドウはそう答えると、ゆっくりと立ち上がる。

「冬月、後を頼む」
「ふっ、残り少ないこの世界をか」

冬月の皮肉に答えず、ゲンドウは発令所を出て行った。
使徒サキエルは使徒ラミエルが放った威力を収束させたビーム攻撃を放って白いエヴァにダメージを与える。
しかし白いエヴァに開いた風穴は驚異的な回復能力により、何度傷つけてもすぐに消えてしまう。
そして使徒サキエルの攻撃を物ともせずに接近し、距離を縮める。
さらに白い9体のエヴァの動きは統率がとれていた。
使徒サキエルは本体のコアを5つ、さらに分身を4つに分けたが、それは意味を成さなくなってしまった。
9体のエヴァ量産型に同時攻撃され、殲滅される使徒サキエル。
エヴァが9体も同時に出現する事など、前例の無い事だったのだ……。

「いったい、何がどうなっているのよ?」
「使徒を倒してくれたみたいだけど……」

アスカとシンジは弐号機のエントリープラグの中で白いエヴァが4体の使徒サキエルと戦う姿をしばらくぼう然と眺めていた。
しかし使徒を倒した白いエヴァが弐号機に向かって持っていた剣を投げると、アスカとシンジは自分達がエヴァに狙われている事が分かった。

「アスカ、今のうちに逃げよう!」

シンジの言葉にうなずいたアスカは、弐号機を走らせた。
しかし9体の白いエヴァはしつこく弐号機を追いかけて来る。

「このままじゃ、追いつかれるのも時間の問題よ!」

アスカの悲鳴を聞いたシンジは、アスカに声を掛ける。

「アスカ、エヴァを降りるんだ。僕が引きつけている間に逃げられるかもしれない」
「何を言ってるのよ、シンジに弐号機が動かせるわけないじゃない!」
「僕はもう二度と、アスカが死んでしまう所を見たくないんだ!」

シンジがそう叫んでエントリープラグの射出スイッチに手を伸ばそうとすると、アスカはそれを押し止める。

「シンジの気持ちは解るけど、アタシだってシンジを犠牲にして生き延びるなんて嫌よ!」
「でも、どちらかしか生き残れないならアスカに生き残って欲しいんだよ」
「シンジは前にアタシに言った事があるわよね、2人で喜びは2倍にして、痛みは分かち合って半分にしようって」
「それは……」
「だからアタシとシンジで受けるダメージを半分にすれば、致命傷を負わなくて済むかもしれないわ」

はっきり言ってアスカの理論は無茶なものだった。
しかしそこまで決意が固いと判断したシンジは、アスカの言葉にうなずきアスカの手を握り締める。

「でも痛い思いをするのは嫌だから、出来る限り遠くへ逃げようよ」
「もちろんよ!」

アスカとシンジは心を重ねてシンクロ率を上昇させ、2人だけの逃避行を始めた。
その頃ゲンドウはレイと共にケージに収められている初号機の所へとやって来ていた。
ゲンドウはネルフの実験棟の水槽で培養されていたクローン体を使ってレイを復活させていたのだ。
自爆して死んだレイをすぐに復活させなかったのは、これまでゼーレの老人達にレイは死んでしまったと思わせるためだった。

「行くぞ、手遅れにならないうちにな」
「はい」

ゲンドウの言葉にレイはうなずき、レイは初号機へと乗り込んだ。
アスカとシンジを助けるために……。


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