空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第五十六話 2011年 プレイステーションの日記念LAS短編 アスカとシンジがPSPソフト『空の軌跡FC』をプレイしました


※この小説はゲーム『空の軌跡FC』の序盤の内容をアスカとシンジが紹介するプレイレポートです。(後半部分はネタバレを防ぐためにぼかした描写になっています)
※台本形式ではないので返って分かりにくいかもしれませんが、作品内のセリフは全てアスカとシンジの感想による会話になります。
※この作品を通じて『空の軌跡』に興味を持って頂けたら幸いです。



ある日の夕方、葛城家の台所で料理をしているシンジの所へ、アスカが笑顔で帰宅する。

「シンジ、ゲーム買って来たわよ!」
「そう、良かったね」

シンジは大した関心が無いようにアスカに答えた。
アスカがゲームを買ってくる事は今に始まった事ではない。
新しい対戦ゲームを買って来てはアスカはシンジを叩きのめすのだ。

「シンジ、負けてばかりだからってそんなに嫌がる事は無いじゃない」
「だって、アスカは学校でもゲームをしてずるいじゃないか」
「今日はその心配は無いわよ」

そう言ってアスカはシンジに買って来たゲームを見せる。
PSPソフト『空の軌跡FC』、日本ファルコムから発売されたRPGゲームだ。
PC版は高価だったが、PSP版はThe Best版も出ていて税抜き2,800円と発売当初よりかなり安くなっている。

「珍しいね、アスカがRPGを買うなんて」
「表紙に書かれているキャラクターがシンジそっくりに見えたから何となく放っておけなくてね」

それはすなわちシンジの事も放っておけないと言う意味になってしまうのだが発言したアスカも鈍感なシンジもスルーした。
アスカに言われてシンジは空の軌跡FCのパッケージの表紙を見た。
真ん中に描かれている元気いっぱいの主役の少女を見守るように、右の方に黒髪で琥珀色の瞳をした少年が描かれている。
確かに言われてみれば自分に容姿が似ているような気がした。

「そうだね。でもアスカ、RPGはクリアーするのに長い時間がかかるよ?」
「うん、だからシンジがクリアーしてよ」
「ええっ!?」
「アタシはこのシンジに似たヨシュアってキャラが、このエステルって女の子とどうなるか知りたいのよ。まあどうせエンディングではくっついているんだろうけどね」
「冗談じゃないよ、僕はそんなにゲームをやる時間は無いよ」

家に帰ってもシンジには葛城家の家事と言う仕事があるのだ。
しかし、アスカはシンジにプレイを強要する。

「家事の合間にやれば良いじゃない、アタシも手伝うからさ」

こうしてシンジはアスカに巻き込まれる形で『空の軌跡FC』のプレイをする事になってしまった。



ゲームを開始すると、家で父親の帰りを待つ10歳のエステルの所へ父親のカシウスがヨシュアを連れて帰ってくるシーンがオープニングとして始まる。

「ふーん、同じ家で同居する事になるのか、アタシとシンジみたいね」
「僕達の場合はアスカが押しかけて来たんじゃないか」
「うるさいわね」

連れて来られたヨシュアは怪我をしていたのでベッドに寝かされたのだが、目を覚ましたヨシュアに対してエステルはヨシュアが口答えする度に叩いたりする。

「ヨシュアの気持ち、僕にも解る気がするよ」
「アタシが暴力的だって言いたいの!?」
「痛っ、今だって僕を叩いたじゃないか」

ヨシュアがエステルに名前を言った所でエステルとヨシュアが出会った10歳の頃の回想が終わった。
場面が切り替わり、16歳になったエステルが自分の部屋で目を覚ますシーンになる。
着替えたエステルが2階のベランダに出ると、ヨシュアがハーモニカを吹いていた。
しばらく聞いていたエステルは演奏が途切れた所で拍手をする。

「シンジも毎朝、チェロを弾いてみない? そうすれば、アタシも気持ち良く目が覚めると思うのよね」
「徹夜明けで寝ているミサトさんまで起こしちゃうよ。それにアスカは体を思いっきり揺さぶらないと起きないじゃないか、夜中までゲームのやりすぎだよ」

シンジの指摘にアスカはほおをふくれさせた。
場面は父親のカシウスの作った朝食を食べるシーンへと移行する。
どうやらエステル達は3人の当番制で料理を作っているようだった。

「アスカが料理を作ってくれれば、僕も朝にチェロを弾く時間ぐらいは持てるかもしれないんだけどね」
「解ったわよ、でも当番制って事はミサトも料理をするってわけね」

アスカの言葉を聞いたシンジは青い顔になる。

「や、やっぱり僕が料理を引き受けるよ」
「え?」

シンジの態度にアスカは不思議そうに首をひねった。
エステル達の朝食を食べながらの会話によると、エステルとヨシュアは今日これから『準遊撃士』になるための試験を受けるのだと言う。
『遊撃士』とはトラブルの解決屋のような職業で、治安維持活動が中心の兵士達よりも街の住民に密着した活動をしているので、街の少年少女の憧れの的になっている。
16歳になったエステルとヨシュアは法律により遊撃士の見習いに当たる準遊撃士になるための試験の受験資格を得たのだった。
今日の試験に受かれば父親のカシウスと同じ遊撃士になれると言うエステルに、カシウスは茶化しながらまだ自分に並ぶのには遠いと語った。
カシウスはエステル達が住んでいる大陸に数人しか居ないスペシャルクラスの遊撃士なのだ。

「街の少年少女の憧れの職業だなんて、アタシ達チルドレンみたいじゃないの」
「だけど、凄い父さんが居るなんて大変そうだね」

シンジは自分が父ゲンドウのコネクションでチルドレンになれたのだとウワサされているのを知っていた。
また自分が頑張って使徒を倒しても、司令の息子だから当然だと言われる事を悲しく思っている。
偉大な父親のプレッシャーに押しつぶされずに前向きに振る舞うエステルをシンジはうらやましく思った。



朝食を食べ終えたエステルとヨシュアは父親のカシウスに見送られて、遊撃士のギルドがあるロレントの街へと向かった。
ギルドの顔を出したエステルとヨシュアは、『準遊撃士』になるための試験を仕切る試験官である遊撃士シェラザードに朝のあいさつをする。
シェラザードはカシウスに指導を受けた若い女性遊撃士で、エステルとヨシュアに対して姉のように遊撃士になるための指導を行って来ていた。

「なんか、シェラザードってミサトみたいね」
「僕もそう思ったよ」

アスカの意見にシンジも同意した。
そしてエステルとヨシュアは怪物を蹴散らしながら街の地下水道の奥に置かれた箱の中身を取って来ると言うシェラザードの課題をクリアーし、晴れて試験に合格して準遊撃士のバッジと資格を手に入れた。
エステルとヨシュアが試験を終え帰宅しようとすると、街の子供達が迷子になってしまったという事件が起きたが、カシウスの救援もあり事件は無事解決した。
そして帰宅して夕食を食べている時に父親のカシウスから遊撃士の大仕事の要請が入り、しばらく地元のロレント街を離れる事になったと聞かされる。
カシウスは自分が引き受けていた地元ロレントでの仕事の内、難しい仕事はシェラザードに任せるが、簡単な仕事はエステルとヨシュアに任せたいと提案した。
エステルとヨシュアはこのカシウスの提案を喜んで受け入れ、次の日から準遊撃士としての活動を始めた。

「何か、ありきたりな展開になって来たわね」
「最初の方なんだから仕方が無いよ」

アスカが退屈そうにため息をつくと、シンジがたしなめた。

「アタシ眠くなっちゃった、後はシンジが進めておいて」
「そんなあ」

シンジの抗議の声も空しく、アスカは居間を出て行って自分の部屋へと入って行ってしまった。
ブツブツ言いながらシンジはしばらくゲームを続行した。
『空の軌跡』はサブクエストと言う本筋とは関係の無い話をこなして行くうちにレベルが上がるので経験値稼ぎ作業をさせられている感じは薄かった。



次の日アスカとシンジは夕食後、居間で再び空の軌跡のプレイを再開した。
昨夜シンジがプレイを進めただけあって、エステルとヨシュアは父親のカシウスから任された依頼を全てこなした場面になっていた。
ギルドで新たな仕事を受けようとしたエステルとヨシュアの元に、息を切らしたロレントの市長が飛び込んで来る。
市長邸に強盗が押し入り、金庫に入っていた宝石が奪われる事件が発生したのだ。
シェラザードはエステルとヨシュアに市長邸の調査をするように命じ、プレイヤーであるアスカ達にも犯行の状況を推理させる場面が3択形式で出題された。
アスカは見事に4問の問題全てに正解し、シンジは感心して賞賛の拍手をする。

「凄いアスカ、一発で正解するなんて」
「ふふん、アタシにかかれば余裕だわ」

空の軌跡ではBPブレイサーポイントと呼ばれるものがあって、これが溜まるとエステルとヨシュアの遊撃士のランクが上昇する。
プレイヤーの行動によってはBPに加算ボーナスが付いてエステルとヨシュアの遊撃士ランクが早く高くなる。
完璧主義のアスカはこのBPに関してもこだわりを持っていた。
市長邸での調査を終えたエステルとヨシュアはシェラザートと共に犯人の追跡に移る。
そしてついにロレントの街の南にあるミストヴァルトの森の奥で犯人である女盗賊ジョゼットと空賊の一味を発見した。
ジョゼットは仲間である空賊の一味と、エステルの悪口を話している。
物影に隠れていたエステルだが、ヨシュアに止められたにもかかわらず飛び出してしまった!

「アスカ、エステルが飛び出しちゃう選択肢を選んだらボーナスBPがもらえないじゃないか」
「ジョゼットに馬鹿にされて腹が立ったんだもん……」

アスカはあわててPSPを再起動してゲームをやり直した。
どうやらアスカもエステルは自分の分身のように感情移入し始めてしまったようだ。
シンジもヨシュアになりきってエステルにツッコミを入れているように息が合って来た。

「でも、アスカはどっちかと言うとエステルよりジョゼットの方に似ている気がするけど」
「あ、あんですってー!? アタシのどこがあの生意気そうなやつに似てるって言うのよ!」
「分かったよ、言い過ぎたよ、ごめん!」

アスカとシンジの間で内輪もめが起こり、ゲームはしばらく中断した。
そしてジョゼットと空賊一味を戦闘で倒し盗まれた宝石を取り戻したエステル達だったが、突然空賊の小型飛行艇がや飛んで来てジョゼット達に逃げられてしまう。
犯人は逃してしまったが、強盗事件はこれで解決した。
エステル達が遊撃士協会で事件の報告をしているとさらなる事件を知らせる通信が入る。
何と出張していたエステルの父親カシウスが飛行船ハイジャック事件に巻き込まれて音信不通になってしまったのだ。
だが前向きなエステルは自分の手で事件を調べると決意し、事件の起こった街、ボース市へ行く事にした。
ロレントの街を旅立つ前、エステルはヨシュアに街の中心にある時計台に登りたいと提案した。
ヨシュアはいつも時計台に登りたくないのにどうして、と尋ねるとエステルは自分の母親がこの時計台で命を落とした事件について語った。
エステルの母親は崩壊した時計台のガレキから幼いエステルを守り、幼いエステルの目の前で息絶えたのだ。
その回想シーンを見たアスカは目の端に涙を浮かばせた。
ゲームの中でヨシュアがエステルを励ますと、アスカは自分の涙をごまかすかのように、おどけてシンジに声を掛ける。

「シンジもヨシュアみたいに懐の広い男になりなさい」
「どうして?」
「そりゃあ……エステルみたいにママを失った女の子に会った時に優しく包み込んであげるためよ」

アスカは少し顔を赤らめてシンジの質問に答えた。
シェラザードの助力もあって、エステルとヨシュアはボース市で起きた飛行船ハイジャック事件を解決し、父カシウスの無事も確認できた。
受け取った手紙によるとカシウスはハイジャック事件に巻き込まれる前に飛行船を降り、今は外国に居るらしい。
カシウスが家に帰るまで数ヵ月はかかりそうだと言うと、エステルとヨシュアはシェラザードと別れ遊撃士として経験を積むために国内の都市を巡る旅を続ける事にした。
エステルは旅を続けるうちにヨシュアを異性として意識し始め、きっとエステルとヨシュアはカップルとして結ばれるのだとアスカとシンジも思っていた。
アスカもエステルの真似をしてシンジに「あーん」をして食べさせてもらうなど、空の軌跡のプレイを明るく楽しんでいた。



しかし旅の果てに仲間達と力を合わせて大きな事件を解決した後。
夜中の大きな城の庭園で、ヨシュアがエステルに自分の過去を含めて全てを告白した場面を見終わったアスカとシンジは衝撃を受けた!

「何でヨシュアはこんな自分勝手な事が出来るのよ、これじゃあエステルがかわいそうじゃないの!」
「僕に言われたって困るよ!」

アスカはまるで自分が辛い目にあってしまったかのようにシンジの胸倉をつかみ上げ、感情が高ぶり涙を流し始めた。

「ほらアスカ、『空の軌跡SC』って続編があるみたいだしこれで終わりじゃないみたいだよ」
「それなら、すぐに『空の軌跡SC』を買って来なさい!」
「えっ、でももう外は暗くなっているし、明日の放課後に買いに行けばいいじゃないか」
「こんな憂鬱なエンディングを見せられたのよ!」

涙を流すアスカの姿にシンジも逆らい切れず、すぐに『空の軌跡SC』を買いに家を飛び出した。
それからアスカとシンジは続きが気になって睡眠時間を削って『空の軌跡SC』のプレイをする事になる。
慢性的な寝不足になってしまったアスカとシンジは集中力が低下し、学校のテストの成績がさらに悪くなったことでミサトに叱られ、シンクロテストの成績が悪くなった事でリツコに怒られるのだった。
しかしシンジのシンクロ率が上昇しなかった事もあり、アスカはシンジに嫉妬する事無くシンジとは比較的良好な関係を続ける事が出来たようだ。

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