空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第五十四話 2011年 七五三記念LAS短編 チルドレン2世達の幸福 + おまけ超短編 ラブレターの犯人は明白! セット


シンジとアスカは今日、子供達の七五三だと言う事で朝から大忙しだった。
アスカが鏡の前でポーズをとって悩んでいる横で、シンジは元気良く走りまわる男の子を追いかけている。

「こらカイ、じっとしてないと靴下が履けないじゃないか」

シンジがそう言ってもカイは動きまわるのを止めなかった。

「まったく七五三は子供が主役だって言うのに、アスカがおめかししてどうするのよ」

ミサトが苦笑しながらアスカに声を掛けた。
そのミサトの側では今年七歳になるミサトの娘、アカリが三歳になるアスカの娘、愛美エミの事をあやしていた。
自分の娘がちょうど七五三を迎えるのでカイとエミと一緒に近くの神社で記念写真を撮る事にしたのだ。

「だって一生に一度のイベントだし、恥ずかしい写真が残ったら嫌じゃない。やっぱりドレスじゃ無くて着物の方が良かったかな? ねえねえ、ドレスと着物、両方撮るって言うのはどう!?」
「ちょっと、あんたねえ……」

着物姿のミサトはあきれた顔でため息を吐いた。
ネクタイを締めてスーツを着たシンジは11月だと言うのに汗だくになって助けを求める。

「アスカもカイに靴下を履かせるのを手伝ってよ、ミサトさんでも良いからさ」
「あはは、カイ君は私の事をポンポンと叩くから苦手なのよ。その点、女の子は良いわよね扱いやすくて」

ミサトは笑顔でそう言ってエミの頭を撫でた、シンジを助けようとする気は無いようだ。

「ミサトは歳を取りすぎてカイの面倒を見るのには荷が重すぎるわね。40代後半突入となると腰とか辛いんじゃない?」
「バカ言いなさい、私は元戦略自衛隊の士官よ、体力には自信があるわ。息子のユウキも今のアスカ達とそんなに変わらない歳の頃に産んで育ててるんだし」

ユウキとは今年10歳になるミサトの長男で、ミサトが30歳、アスカとシンジが15歳の時に生まれた元気で明るい男の子だ。
今日は友達とサッカーをする約束をしているので、妹のアカリの七五三に付き合うのは断ったそうだ。
シンジはやっとカイを捕まえて靴下を履かせ、準備万端と行きたい所だったが今度はトイレに行きたいと言い出した。
エミは三歳でまだおしめをしているのだが、カイは幼稚園に行くようになっておしめをとっていたのだ。
しかし、トイレに行くのが遅れてリビングのカーペットを濡らした事は何回もある。

「んもう、仕方無いわね!」
「ママ怖いー」

苛立ちを隠さないアスカの様子にエミが怯えた仕草をした。
アスカはいそいそとカイを抱えてトイレと入って行った。

「アスカママは怒鳴ったりして怖いわよね、じゃあミサトおばさんの子になる?」

ミサトはそう言ってエミに微笑みかけるが、エミはぷいっと横を向く。

「バァバは嫌」
「振られちゃいましたね」

エミに即座に拒否された事と年寄り呼ばわりされてダブルショックで凹むミサトにシンジは慰めの声を掛けた。
カイがトイレから出た後、アスカ達は慌ただしく玄関で子供達に靴を履かせる。

「こらっ、カイ! お座りしないと靴が履けないでしょう!?」

ここでもやんちゃ盛りのカイに座らせるだけで一苦労だ。
靴を履かせたと思ったら蹴り飛ばしてしまう事もあっててんてこ舞いだった。
神社まではシンジの運転する車で慎重に向かった、やっぱりミサトの運転は荒っぽく、酔ってしまう事があるからだ。
七五三の参拝をする神社に到着したシンジはカイの手を引いて社務所へと顔を出す。
予約の時間までしばらく待たされることになったシンジはカイが暴れて服を汚してしまわないようにお菓子でご機嫌をとっていた。
アスカは他の参拝客から娘のエミと共に褒められてまんざらでもない顔をしている。
自分を含めて自分の娘は可愛いと言われて当然だと思うのがアスカらしい。
そしてシンジ達の順番になり祝詞のりとを上げてもらうために本殿に入ったのだが、アスカは一礼するのを忘れてミサトに注意される。

「そんなことじゃ神様に嫌われちゃうわよ?」
「ご、ごめんなさい」

ミサトは冗談めかして言ったのだが、アスカは見ている方が恥ずかしくなるほど真剣に謝った。
祝詞のりとの儀式が終わったシンジ達は帰りに神社のお参りをする。
アスカはためらいも無く5,000円札を取り出し、さい銭箱に入れて鈴を鳴らして何度もお辞儀をした。

「アスカ、そんなにお祈りしなくたって神様は願いを聞き入れてくれるよ」
「普段からそれぐらい神様に感謝していれば慌てる必要は無いのにね」
「だってさ、大切な事じゃない」

ミサトに言われて、アスカは少しむくれた表情でそう答えた。

「ほら、今度は記念写真を撮るんだからそんな顔をしていちゃ台無しだよ」
「そうね」

シンジに言われてアスカはしかめっ面をするのをやめた。
予約をしていた『スタジオ○リ○』は神社の向かいにあった。
売り上げの30%が七五三シーズンと言われている評判の写真館。
入口に飾られた七五三写真を見てアスカは期待に満ちた表情になる。

「ここなら、カイやエミを可愛く撮ってくれそうね」
「アカリも居るのよ、忘れないでちょうだい」

自分の家の子供しか目に入っていないアスカに、ミサトは釘を刺した。
ミサトの長男ユウキが生まれた時は中学三年生、ミサトの長女アカリが生まれた時は高校三年生だったシンジとアスカは良く二人を可愛がった。
だからアカリはアスカに懐いていたのだが、エミが生まれてから自分の子を猫かわいがりするようになると温度差を感じてしまっているようだ。
その後エミとカイ、アカリの三人が姉妹のように並んで写真を撮影した。
元気良く駆け回っていたカイもこの時は緊張してひきつった笑みを浮かべている。
写真を撮り終って緊張から解放されたカイはシンジにおねだりを始める。

「パパ、マリオー」
「分かってる、約束だからね」

シンジは七五三のお祝いに『スーパーマ○オブラザーズ○』をカイに買ってあげる約束をしていたのだ。

「はいはい、解ってるって。エミにも『○リキュア』を買ってあげるから」

不安げに見つめるエミに向かってアスカはそう微笑んだ。

「しっかし、最近キュア○○ディとかジュエル○○トとか色々増えて覚えきれないったらありゃしない、そう思わない?」
「別に覚えられますけど」
「それってやっぱりミサトが年寄りって事じゃないの?」

共感を得ようとしたミサトはシンジとアスカに言われて思い切り凹んだ。
そんなミサトを娘のアカリが慰めている。
帰りにシンジ達は車でデパートに寄りおもちゃを買って帰宅した。

「やあシンジ君、ご苦労だったね」

シンジの家ではミサトの夫となった元ネルフのオペレータ、日向マコトが料理を完成させて待っていた。
日向はシンジ達が神社に行っている間にスーパーで材料を買って料理を作ってくれていたのだ。
使徒戦で加持リョウジが命を落として落ち込んだミサトを励ましていた日向が耐えきれずに自分の気持ちを打ち明けると、ミサトは日向のプロポーズを受け入れて夫婦となった。
アスカは加持の事をすぐに忘れてしまっていいのかとミサトに反対したが、今はミサトと和解している。
結婚してもミサトの家事能力はアレだったので、日向が料理などを率先して行っているのだった。

「うわあ、おいしそうね。日向さん、ありがとう。ほら、カイもエミも日向さんにお礼を言うのよ」
「ありがと……」
「ありがとー」

エミは日向に笑顔を向けてお礼を言ったが、カイはそっぽを向いてブツブツとお礼を言った。
どうやら買ってもらって手に持っているマ○オの最新ソフトの方に夢中になっているようだ。

「はは、どう致しまして」

日向はそんなカイの様子に苦笑しながらそう返した。
そして日向の作った料理で賑やかな食事が始まる。

「カイ、しっかりと落ち着いて食べなさい。食べないとマ○オはおもちゃ屋さんに返しちゃうわよ」

アスカがカイをあやしながら食べさせようとする。
エミとアカリは言われ無くても料理をたくさん食べていた。

「これで七五三のお祝いは無事に出来たね」
「うん、カイとエミにはずっと幸せで長生きしてもらいたいわ」

シンジとアスカはそう言って見つめ合った。
七五三は子供の幸福と長寿を願う大切な行事。
自分達がしてもらう事の出来なかった分だけ、シンジとアスカは自分の息子と娘に七五三をしてあげられてとても嬉しかったのだ。

「記念写真が出来上がるのが楽しみね、きっとエミは可愛く写っているに違いないわ」
「アスカ、そんなに可愛い可愛いってエミちゃんを持ち上げると、将来自信過剰になっちゃうわよ」
「アカリちゃんみたいに?」

アスカとシンジもミサトの娘のアカリが小さい頃にはさんざん可愛いともてはやしたものだった。
七歳になった今でも将来モデルさんになると自信のほどをうかがわせている。

「それじゃあ、あんまり可愛いとほめるのも考えものなのかな……」
「何を言っているのよシンジ、エミは本当に可愛いんだから問題無いじゃない!」

どこまでも娘を溺愛できあいするアスカなのだった。




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おまけ超短編
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いつものようにアスカと連れ立って登校したシンジは自分の席に着くと机からピンクの便箋がはみ出しているのが見えた。

「何だこれ?」
「不幸の手紙かいな?」
「バ、バカじゃないの、不幸の手紙がそんなかわいい便箋に入っている訳が無いじゃないの!」

アスカは少し慌てた様子でトウジに指摘をした。
シンジが便箋を開けて中を開くと、『話したい事があるので、放課後に体育館裏へ来て下さい』と書かれた紙が入っていた。

「これってラブレターだよな?」
「ラ、ラブレターですって!? ど、どこにシンジなんかを好きになる物好きがいるのかしら?」

ケンスケの言葉を聞いて、アスカはそう叫んだ。
アスカの大声に教室中の視線が集まる。

「これを書いたのはアスカだよね?」
「どうして、そ、そんな事言うのよ!」
「そんなに顔を真っ赤にしてたらバレバレやないか」

沸騰しているアスカに対してシンジは至って冷静に話し掛ける。

「どうせ僕をからかうつもりだっただろう」
「そ、そうよ、ア、アタシがシンジに恥ずかしくて告白できないからってラブレターなんて書いて、朝早くシンジの机に入れておくなんてするはずないじゃない」

もはやだだ漏れになっているアスカの態度を見て、シンジも顔を赤らめる。

「えっ、もしかしてアスカは本当に僕の事を……?」
「だ、だからシンジまでどうして赤くなるのよっ!」
「放課後じゃ無くて、今この場で告白してしちまえよ、惣流」

ケンスケに言われてアスカはノックダウンして倒れてしまった。

「まったく、アスカってばウソがつけない性格だって自覚していないのかしら」

保健室にアスカを運ぶ事になってしまったヒカリはため息をついてそうぼやくのだった。

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