第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
二年生
第三十五話 だってあんなに楽しそうだから 〜ENOZ featuring REI〜


<第二新東京市北高校 SSS団部室>

始業式・入学式の翌日、アスカは勝ち誇った顔でハルヒにSSS団の新入部員の候補となる1年生を発見した事を宣言した。
するとハルヒは何が気に入らないのか不機嫌な顔でアスカをにらみ返す。

「本当に見つけたんでしょうね? 力づくで強引に連れてくるなんて、そんなのは無しなんだからね!」
「お前が言うな。……まあ、言っている事は正しい事は認めてやるけどな」
「やっぱりキョンもそう思う?」

キョンのツッコミを都合良く考えたハルヒは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
全然へこたれないハルヒにアスカはあきれてため息をつき、シンジ達は乾いた笑い声をあげた。

「あたしは個性が立っていない人間を迎え入れるつもりは無いし、何よりもやる気と気合が無いのはご法度なのよ」
「とりあえず、面接をしてみたらどうだ? 会ってみない事には始まらないだろう」

キョンが提案するとハルヒはしばらく考え込んでから首を横に振る。

「まだ候補となる1年生がその子達だけとは限らないし、まとめて入団試験をやることにするわ!」
「何ですって!?」

ハルヒの言葉に、アスカは驚きの声を上げた。

「それでは、これから入団試験の内容を決めるミーティングを始めます!」

いつものように団長席の上に立ったハルヒはそう宣言をした。

「ハルヒったら自分の負けを認めたくないからってヘリクツをこねちゃってさ」
「アスカが怒る気持ちも分かるけど、涼宮さんの好きなようにやらせてあげようよ」

すねるアスカをシンジがそっとなだめた。

「あたしは何か不思議な物を発見して来た人を団員に迎えようと思うんだけど、どうかしら?」
「ハルヒ、不思議なものなんてそうそう転がっているものか、市内探索でも空振りばかりじゃないか」
「それに、不思議な物を発見した人イコール有能な人材、とは限らないんじゃない?」

キョンとアスカに指摘されたハルヒは口をアヒルのようにして引き下がった。

「じゃあ、他に何か案があるわけ?」

ハルヒの言葉を聞いて、SSS団のメンバー達はうなってまた新しい案を考え始めた。

「それなら、歌を歌うと言うのはどうかな?」
「確かに作詞・作曲にその人の個性と言うものが出てくるわね」

カヲルの提案に、ハルヒは興味を持ったようだ。

「でもオリジナルソングはハードルが高すぎない?」
「じゃあカラオケとかにすれば良いんじゃないかな」
「替え歌にすれば個性が出ると思うわ」
「それは無理」

アスカの心配に対して、シンジとレイは修正案を提案したが、本を読んでいたユキが顔を上げて即座に否定した。

「何でよ!? 別に楽器ぐらい軽音楽部や吹奏楽部に頼めば貸してくれると思うけど」

せっかくの面白い提案を却下されたハルヒはふくれた顔でユキに詰め寄った。

「きっとあなたは歌っている所をビデオカメラなどで撮影したくなるはず。そしてDVDなどの記憶媒体に記憶された音声データは不特定多数に向かって配信される可能性がある」
「要するに著作権に抵触するってことか」

キョンが尋ねると、ユキは首を縦に軽く振って頷いた。

「せっかく撮影したのに、みんなに見せられないんじゃ思い出としては良いかもしれないけど、いまいちね」
「また別の物を考えなければならんな」

ハルヒとキョンが揃って難しい顔をして考え込んでいると、それまで黙って見ていたミクルがおずおずと手を挙げる。

「あのー、漫才なんてどうですか? さっき涼宮さんとキョン君がやっていたのを見て楽しそうだったし」
「それよ!」
「ふ、ふえっ!?」

いきなり元気よくハルヒに腕をつかまれたミクルは思いっきり驚いてしまった。

「ミクルちゃん、お手柄よ!」
「あ、ありがとうございます」

ハルヒは軽やかな動きで団長席の椅子の上に飛び乗ると、嬉しそうな笑顔で宣言をする。

「SSS団の入団試験は漫才をしてもらう事にするわ!」
「でも、漫才ってやっぱりボケとツッコミのコンビじゃないといけないんじゃないかな」
「一人ボケツッコミと言う手もあるし、相方を見つけなきゃいけないから、出会いのきっかけになるじゃない」

シンジの質問に対するハルヒの返答を聞いて、SSS団のメンバー達は納得したようだった。

「あたし達SSS団も新入団員のお手本になるように漫才をする事にするわ!」
「……で、やっぱり勝負なんだな?」
「解ってるじゃない、キョン! これが本当の勝負よ、アスカ!」
「今度こそ逃げずに負けを認めるんでしょうね!」

ハルヒに人差し指を突き付けられたアスカは憮然とした顔でハルヒに言い返した。

「涼宮さん、僕達はどうすればいいのでしょう?」
「古泉君達は自由に組み合わせを決めなさい、トリオとコンビでも適当に。でも、無様な結果に終わったら罰ゲームだからね!」
「私、漫才なんて出来るかなあ?」

ミクルはオロオロとした様子でそう呟いた。

「大丈夫よ、ミクルちゃんの天然ボケは誰にも真似できないほど面白いから!」
「涼宮さん、ちょっとそれはひどいですー」

ハルヒが笑顔でミクルの肩に手を置くと、ミクルは泣きそうな声で嘆いた。

「でも、即興で漫才をやれと言われても無理だろうし、告知や準備に時間が必要だと思うよ」
「お花見の時期になってしまいますね」
「古泉の誕生日を今年は盛大にやるんじゃなかったのか?」
「まとめてやっちゃいましょう!」

シンジとイツキとキョンの意見を聞いたハルヒは閃いたかのように手を打って断言した。

「いいのか古泉、誕生日のプレゼントが漫才なんかで」
「僕はお金で買える品物はたいてい何でも手に入ってしまいますからね、形の無いプレゼントの方が嬉しいのですよ」
「古泉、それって凄いイヤミだぞ」

キョンはイツキの答えにため息を吐いた。

「というわけで朝比奈さん、僕とペアを組んでいただけませんか?」
「え、でも、古泉君は私と組むよりも長門さんと組んだ方が……」

突然イツキに声をかけられたミクルは驚いてオロオロしながら遠回しに断ろうとした。

「どうして、ダメなのですか?」
「そ、それは……」

禁則事項です、と言い掛けたミクルはハルヒがニヤニヤしながら見ているのに気がついて言葉を切った。

「僕の誕生日プレゼントだと思って、引き受けてはくれませんか?」
「古泉君はいつの間にかミクルちゃんの事を好きになっていたのね」
「わ、わかりました……」

これ以上は拒否しきれないと判断したミクルは顔を真っ赤にして了承した。

 

<第二新東京市立北高校 SSS団部室>

新1年生と2・3年生との顔合わせである生徒対面式も終わった1週間後の4月中旬。
生徒会主催での部活動説明会が体育館で行われる事になった。
各クラブの部長が部活動の内容や魅力を説明するのが目的で、SSS団の団長であるハルヒも意気揚々と体育館に乗り込んで行った。
長門ユキのデザインである宇宙人・未来人・異世界人のイメージが描かれた特大ポスターを担いだキョンが付き人のようにハルヒについて行く。
キョンとハルヒ以外のメンバーはハルヒの命令により新入部員を迎えるために部室の飾り付けをしていた。

「まったくハルヒってば、1年中お祭り騒ぎなんだから!」

アスカはそう言いながら、クリスマスツリーの飾り付けをしていた。
その隣でシンジが笹の葉の飾り付けをしている。
さらにその横でイツキが夏祭りの飾り付けを、部屋の反対側ではミサトが正月の飾り付けで門松を置いている。
ユキは大吉と書かれたおみくじ、だるま、招き猫、シャンパン、四つ葉のクローバーの鉢植えなど縁起物・開運グッズを紅白のテーブルクロスが掛けられたテーブルに並べていった。

「あのー、私も手伝いましょうか?」

忙しそうにしている4人を見かねてミクルが声を掛けた。

「僕達は大丈夫ですから、朝比奈さんは涼宮さんに言われたお茶の準備をしてください」

ミクルはハルヒに中国のおめでたいお茶『甜茶(てんちゃ)』を人数分用意するように命じられていた。

「そうそう、この部屋には盆と正月が一緒に来てるけど、それほど忙しくないわ」

ミサトの言う通り、部室は広くは無かったので飾り付けにそんなに時間が掛かるわけでもなかった。

「碇君、他の部を回って余った椅子を借りて来たわ」
「お疲れ綾波、カヲル君」
「椅子を10人分とは、涼宮さんも気合が入っているね」

カヲルはそう言って軽く笑い声を立てた。

「あの2人は来てくれると思うけど、10人も来るのかな」
「アタシはあんまり増えて欲しくないわね」
「どうして?」
「気の合う仲間とやって来たからSSS団も楽しいわけだし……」

アスカは顔を赤らめてさらにポツリとつぶやく。

「他の子にシンジとの仲を邪魔されたりしたら嫌だから……」
「はいはいアスカもシンちゃんもごちそうさま」

ミサトがニヤニヤしながら手を叩いて冷やかすと、見つめ合っていた2人はパッと視線を反らして飾り付けの仕事を再開した。
そんなSSS団の部室に、軽音楽部の演奏が漏れ聞こえてくる。

「軽音楽部のみんなは楽しそうですね」
「何組のバンドが部室で演奏会をするそうですよ」

ミクルがお茶を淹れながらニコニコしながらそうつぶやき、イツキがみんなに内容を説明するようにそう言った。

「バンドかあ、僕も中学の時にトウジとケンスケと委員長と組んでやったっけ」
「地球防衛バンドだっけ? まあ名前はダサかったけど、ヒカリがプロ顔負けの歌唱力だったのは驚いたわ」
「碇君はどんな楽器を弾いたの?」

レイに聞かれたシンジは質問されて不思議そうな顔をした。

「私はあの時にはまだ2人目だったから、知らないの」
「あ、ごめん……キーボードを弾いていたんだ」

暗く沈んだレイの表情を見て、シンジは謝りながらそう答えた。

「私もバンド、やってみたかったかな……」
「綾波はカヲル君と一緒にギターの練習をしているんだっけ?」
「ええ、学校から帰った後にカヲル君の部屋で、だけど……」

シンジとレイのやり取りを聞いていたアスカは、何かを思いついたかのように嬉しそうな顔でポンと手を叩く。

「そうだ、SSS団でもバンドをやりましょうよ!」
「え?」

突然そんな事を言い出したアスカに、シンジが驚きの声を上げた。

「ハルヒのやりたい事ばかりを押し付けられるだけじゃなくて、アタシ達のやりたい事も主張して行くべきよ!」
「さすが惣流さん、副団長として素晴らしい提案ですね」

アスカの提案に、イツキも笑顔を浮かべて賛成した。

「でも、勝手な事を言い出したら涼宮さんの機嫌が悪くなるんじゃないかな」
「何でもかんでも自分の思い通りにならないって言う事を、そろそろハルヒも学んで良い頃よ」
「素晴らしい信頼関係ですね」

シンジの反対意見を自信たっぷりに押しのけたアスカを見て、イツキは愉快そうに言った。
レイは軽音楽部から聴こえてくる曲が気になっているのか、軽音楽部の部室の方をチラチラと眺めている。
そんなレイに気が付いたのか、アスカが声を掛ける。

「レイ、軽音楽部の演奏が気になるなら、渚と聴きに行ってもいいわよ」
「でも……」
「もう飾り付けはアタシ達だけでも十分間に合うわよ」
「綾波、アスカはお節介を言い出したら止まらない性格だからさ」
「むう、悪かったわね」
「ありがとう、アスカ」

アスカの申し出に戸惑っていたレイだったが、そこまで言われたのでアスカの好意を受け入れる事にした。

 

<第二新東京市立北高校 軽音楽部部室>

軽音楽部の部室はステージとたくさん運び込まれた椅子による客席に分けられていて、小さなライブ会場のようになっていた。
レイとカヲルが部室に到着した頃には、バンドの演奏も始まっていたようで盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。
熱気に驚いた2人が廊下から部室をのぞき込んで圧倒されているうちに演奏は終了した。
ぞろぞろと観客が帰っていく中で、レイとカヲルは物足りなさを感じてしまいすぐに帰る事も出来ずに廊下に立っていた。
演奏を終えた部員達が汗をかきながら、部室に残った熱烈なファンと会話を交わしている様子を2人で黙って眺めていると、レイは軽音楽部の部員の1人に声を掛けられる。

「あなた達、入部希望者?」
「いえ、私達は……」

レイが首を横に振って否定すると、そのショートカットの女子部員はレイの制服をマジマジと見つめてため息をつく。

「そっか、2年生だからとっくに他の部に入っちゃってるか。じゃあ、バンドの演奏を聴きに来てくれたんだ」
「僕達は少し前に来たばっかりだからほとんど曲は聴けなかったんだ」
「そう、それは残念ね。じゃあ後でアンコールをしてもらえるようにあの子達に頼んであげようか?」

カヲルの言葉を聞いたその女子部員は奥で汗をふいている部員達を指差した。

「どうして、あなた達は汗をかいていないの?」

しかし、レイは目の前で話している部員の様子の方が気になった様だった。
演奏後の興奮に包まれて、頬を上気させて楽しそうにしている部室の中に居るバンドメンバーの部員達よりも、廊下に居るレイとカヲルに声を掛けてくれた部員とその隣に立っている女子部員の寂しそうな表情の方が気になって仕方が無かったようだった。

「私達はメンバーが居なくなっちゃって、演奏が出来なくなっちゃったんだ……」
「そう……」
「あ、私は岡島ミズキ。ドラムをやってるの。で、こっちの子は財前マイ。ベースをやってるんだけど」

ミズキに紹介されたマイは軽く頭を下げた。

「私達、ENOZ(エノッズ)って言うバンドをやっていたんだけど、ギターをやっていた中西先輩が卒業しちゃって、ボーカルの榎本さんも去年の学期末に転校しちゃったの」
「ドラムとベースだけじゃバンドは成り立たないから、解散しようかなと思っていたところなのよ」

ミズキとマイは乾いた笑い声を上げた。
2人からはすっかり諦めムードが漂っている。

「僕達は趣味でギターを練習して居るんだけど、楽譜を見せてくれないかな? 興味があるんだ」
「そう? じゃあ中へ入ってよ!」

カヲルがそう言うと、マイは少し元気を取り戻してレイとカヲルを部室の中へと招いた。
2人は好奇心に逆らう事はできず、軽音楽部の部室へと足を踏み入れる。
そして、楽譜とギターを渡されたカヲルとレイは、時間を忘れてミズキとマイと一緒に演奏を楽しんだ。

「あなた達とこれからも一緒に演奏が出来たら楽しいのに」
「本当、ENOZ復活も夢じゃないわ!」

ミズキとマイが嬉しそうに言ったその言葉は、レイとカヲルの心を激しく揺り動かした……。

 

<第二新東京市立北高校 SSS団部室>

「遅い、レイと渚君はどこで油を売っているのよ!」

部活動説明会の演説のために体育館へ行っていたハルヒとキョンがSSS団の部室に戻って来たのはかなり遅かった。
初っ端から力の入ったハルヒの演説は、規定の時間を大きく超えていた。
司会役の生徒会長が再三にわたって制止したがハルヒの演説は止まらず、生徒会とハルヒとの格闘バトルまでに発展した末についにハルヒは壇上から引きずりおろされ、グダグダになったまま部活説明会は幕を閉じた。
SSS団の部活動紹介が生徒会長の指示によって一番最後になったので他の部活動に迷惑がかからなかったのが不幸中の幸いだった。
その後ハルヒとキョンは生徒会室で生徒会長達にたっぷりとお説教を食らったが、ハルヒは馬耳東風で聞き流していた。
キョンによると怒って殴りかからない分だけハルヒも成長して自己反省しているとの事だ。
夕方に予定されたSSS団の説明会の時間が近づき部室に戻って来たハルヒは、レイとカヲルの姿が無い事に気が付いて声を荒げた。
シンジとアスカは下を向いてハルヒから必死に目を反らしていたが、勘の良いハルヒは不自然な2人の態度を見抜く。

「あんた達、何か隠しているでしょう!」
「2人は軽音楽部の部室に行っているのよ」

アスカが口を割ると、ハルヒは納得したかのように息を吐き出し、怒りを収めた。

「ふうん、そう言えばあの2人、ギターとか弾いていたわね」
「レイがバンドを組んで演奏してみたいって言ってたわ、SSS団でもやってみたらどう?」
「いいわね、でもみんな楽器は出来るの?」

アスカの提案を聞いて、ハルヒは笑顔でミクル達の方を振り返って問いかけた。

「わ、私は演奏とかしたことありません」
「大丈夫よ、ミクルちゃんはタンバリンでも振っていてくれれば良いから」

ハルヒはそう言いながらドアの方へと歩いて行った。

「ちょっと、どこへ行くの?」
「軽音楽部に2人を迎えに行くのよ、どんな感じなのか見てみたいし」

アスカの問いかけにハルヒはそう答えた。

「待てハルヒ、俺も行く」
「んもう、あたしだけでも平気なのに」

ハルヒとキョンは連れ立って部室を出た。
廊下に出た2人の耳に軽音楽部の部室からの演奏が聞こえてくる。
すでに予定のライブは全て終わっている時間だった。
軽音楽部の部室に近づくにつれ、ボーカルの声が鮮明になって行く。
そして軽音楽部の部室の中をのぞき込んだハルヒとキョンの目に飛び込んで来たのは、汗を流しながら瞳を輝かせてENOZのボーカルとして、楽しそうに歌を歌うレイの姿だった。
カヲルもレイの姿を見て嬉しそうに曲に乗ってギターを弾いている。
ハルヒが後ずさりして倒れそうになった所を、キョンが慌てて支えた。
するとハルヒはキョンの手を振りほどいて顔を伏せながら廊下を走って行ってしまった。

 

<第二新東京市立北高校 屋上入口踊り場>

ハルヒは力の無い様子で階段に腰掛けてうつむいて座っていた。
そこへキョンが階段を登って近づいて来る。

「おいハルヒ、こんな所で凹んでいる場合じゃないだろう?」

キョンが声を掛けてもハルヒは顔を上げなかった。

「早く綾波さんと渚を部室へ連れ戻して、説明会を始めようぜ」
「連れ戻せるわけ無いじゃないの!」

ハルヒはキョンをにらみつけながら怒声を浴びせた。
そのハルヒの瞳いっぱいに涙が浮かんでいて、今にもこぼれ落ちそうだ。

「だってあんなに楽しそうにしているんだもの!」
「そりゃ、新しい体験をして興奮しているんだろうな」
「SSS団に居る時より生き生きとしていたしさ、悔しいじゃない」

ハルヒは唇をキュッとかみしめた。

「お前、軽音楽部に2人を取られると思っているのか」
「そうよ、あの2人にとってはSSS団はどうでも良くなっているの、裏切り者よ!」
「おい、それは言いすぎだろ」

加熱し始めたハルヒをキョンが抑えようとするが、ハルヒの暴走は止まらない。

「きっとSSS団は軽音楽部に負けたんだわ、もうやってられない、SSS団は解散よ!」

そう叫んだハルヒの頬に、キョンの平手が飛んだ。

「いい加減にしろ!」
「あ……」

信じられないと言った感じで叩かれたほおを手で押さえながらキョンの事を見つめるハルヒ。

「お前はアニメ『軌道警備員フンバルマン』のプラモデルを買うほどのファンだったよな」

突然何を言い出すのかと、ハルヒはぼう然としたままキョンを見つめ続けた。

「だが、最近は『腰パンボーイ』こそが最高のアニメだと言ってフィギュアを買いあさっている。お前はフンバルファンを裏切ったのか?」
「そんなこと無い、鋼の肉体を持つハマー軍曹は永遠の兄貴キャラよ! 正義君とはまた違った面白さがあるわ!」
「それと同じようなもんだ。軽音楽部が楽しい部活動だからって、SSS団の楽しさが否定されたわけじゃないだろう。さらに、同じ北高の部活動でもある、部活動は勝ち負けじゃないだろう」
「キョン、あんた例え話が下手ね」
「あの2人が軽音楽部に入るとしたら、それはもっと面白い事を見つけちまったんだ。2人をSSS団に束縛するわけにはいかないだろう?」
「言いたい事はわかったけどさ……」

ハルヒはキョンの言い分に納得したようだったが、いまいち元気の出ない様子だった。

「お前がしっかりしないと、SSS団は一体どうなる!」

キョンはハルヒの両肩をがっしりつかんでさらに言葉を続ける。

「俺達はまだ宇宙人、未来人、異世界人を見つけてない。途中で投げ出して諦めるのか? お前は団長だろう」
「そうよ、あたしはSSS団団長、涼宮ハルヒよ!」

キョンの手を払いのけて立ちあがったハルヒは腰に手を当てたいつものポーズでそう宣言した。
ハルヒのそんな姿を見て、キョンは安心してため息をつく。

「よし、元気が出たようだな。じゃあトイレで顔を洗って、部室に戻ろうぜ。団長様のお帰りをみんな首を長くして待っているぞ」

ハルヒはキョンの言葉にうなずいて階段を降りて行く途中でふとキョンの方を振り返って尋ねる。

「どうして、あたしがここに居るってわかったの?」
「ここは、お前がSSS団を作る宣言をした場所だろう。俺を強引に巻き込んでな」
「……キョンも別に嫌だったらSSS団を辞めてもいいのよ」

ハルヒがしおらしく弱気な顔でキョンにそう話しかけると、キョンは笑顔でハルヒの言葉を笑い飛ばす。

「おあいにくだな、俺はSSS団に入ってから学校生活が楽しくてたまらないぜ」
「そう、じゃあこれからもあたしに付いて行きなさい!」

ハルヒは元気いっぱいの笑顔になって階段を駆け下りて行った。

「そんなに急ぐと転ぶぞ!」

キョンは苦笑しながら凄い勢いで小さくなって行くハルヒの背中に声を掛けた。


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